1. Top>
  2. ピアノが生まれ変わるまで

1ヶ月に入荷する中古ピアノは1500台前後。多い月には1700台程度入荷します。入荷したピアノは、経過年数による経年変化や使用頻度などにより、保存状態が大きく異なります。そのため入荷時点で、ピアノの状態を部品ごとに詳細に記録して、ピアノを再生する際の部品交換や塗装作業などの資料として保存いたします。

入荷検査が完了したピアノは、ピアノ専用倉庫(約7260㎡=2200坪)に保管します。その後、お客さまからのご注文に応じて保管倉庫からピアノ工房に運ばれ、それぞれの整備作業に入ります。


ピアノ工房に運ばれたピアノは分解された後、お客さまのご要望に応じて、それぞれ専用の作業ブース(大小13ブースあります)に移動し、様々な作業に取りかかります。上の2枚の写真は、基本的な清掃や研磨作業の様子です。


塗装修理が必要なピアノは、専用の塗装ブースで塗装が施されます。左側の写真はアップライトピアノの側面を塗装しているところです。右側の写真はグランドピアノの響板のニスを吹き替えているところです。塗装ブースは3基あり、フル稼働した場合は全塗装も含めて1ヶ月に150台前後のピアノを新品同様に仕上げることができます。塗装作業は、下塗りをして、乾燥させて、研磨をし、さらに塗装して、乾燥させて、研磨して…という作業を何度も繰り返して徐々に完成させていきます。

塗装ブースで塗装作業が完了したピアノは、専用の乾燥室に移動させます。この乾燥室は、1年中(24時間365日)温度と湿度を一定に保つよう管理されており、塗装完了後、この専用室でピアノを約1週間寝かせます。これにより水分を蒸発させ、塗装した部分を安定させることができます。この作業をしっかり行わないと、塗装を施した部分に変化が生じて、修理後の跡が目に見えて出てきます。そうならないために、絶対に欠かせない重要な工程です。乾燥後に研磨して仕上げられたピアノは、さらに1週間程度寝かせて、再仕上げを行います。この一連の工程を経て初めて塗装関連の作業が完了したことになります。

乾燥室で乾燥工程が完了したピアノは、次に塗装を施した部分の研磨作業に入ります。この作業は、塗装面を研磨して全体を鏡の面のように、傷がまったく無い“ピカピカ”の状態に仕上げるための作業です。なお、塗装面の塗料はそれほど厚く塗ってありません。厚く塗った場合、環境にもよりますが、数年後にひび割れを起こしてしまう可能性が高くなりますので、ひび割れを防ぐために厚塗りはしておりません。また、塗装面を研磨し、仕上げる場合には、細心の注意を払って作業を行わないとなりません。この作業を早く、正確に行えるようになるまでには、個人差がありますが、2~3年以上の経験が必要となります。


ポリエステルの塗料で塗装されているピアノの場合は、その傷の修理は同じポリエステルの塗料で修復します。まず始めに、傷が付いている部分を塗料が乗りやすいように加工して、ポリエステルの塗料を少し多めに乗せていきます。ポリエステルの塗料は、短時間(2時間程度)で非常に硬く固まります(硬度7H程度)。そのため、広範囲に塗装を施すと、研磨作業に大変な時間を要してしまいます。そこで、部分的な塗装に止めて作業効率を上げるようにしています。この作業の注意点は、修復した部分が目で見て分かるようだと商品になりませんので、当社の修復基準は、どこを修復したのかがまったく判断できないように仕上げていく技術を求めています。この修復作業で一人前になるためには、数年の経験を積む必要があります。

この部屋では、ピアノの内部に使用されている各種部品の交換や調整作業などを行っています。とても大切な作業であり、1ミリメートル以内の調整が必要な部品がほとんどです。また、同じ作業の繰り返しが多いため、繊細な作業を根気よく続けられることが得意な女性向きの仕事です。この作業は、主に女性が担当しております。

この写真は、バットスプリングコードという部品の交換をしているところです。このバットスプリングコードという部品は、同じ鍵盤を1秒間に5回・6回と、それ以上に早く弾くことができるようにするための装置です。例えばトレモロのような早い打弦は、ピアノのハンマーを瞬時に元の位置に戻すことが必要ですが、それを可能にするための部品です。この部品は経年変化などにより、素材が劣化して切れてしまう場合があります。そろそろ切れそうな場合も含めて、新品の素材に張り直します。この作業により、早いフレーズの曲も安心して演奏することができるようになります。

写真は黒鍵盤のブッシングクロスを張り替えているところです。ピアノの鍵盤は上から押し込むと下がりますが、指を放すと今度は上がってきます。この上下運動の時に、鍵盤を支えている2本のピンとの間に摩擦が生じます。この摩擦を防ぐために羊毛素材(ブッシングクロス)を使用して、ピアノの木と鉄のピンが直接当たらないようにすることができます。摩擦による摩耗の度合いは使用頻度に応じて、または虫などの被害状況によって、早く減ったり消失してしまうことあります。このような状態になると、ピアノの演奏に差し障りが出てきますし、場合によっては、まともな演奏ができなくなってしまいます。そのため、新しいクロスの張り替えが必要になるのです。当社では、カシミヤ混紡の高級素材を使用しています。

ピアノの鍵盤は使用していくうちに剥がれたり、欠けてしまったり、変色したりとさまざまな状態に変わっていく場合もあります。そのような場合、新しい鍵盤に張り替えることが必要です。この写真はその作業を行っているところです。

先程の13番目でクロス類の交換について説明しましたが、ここでは交換までの必要がない場合の作業になります。クロス類の素材は羊毛です。湿気を含んで膨張したりすることがあります。そのような状態になると、摩擦が多くなって鍵盤の上下運動に支障をきたしてしまいます。極端な場合には、全く動かくなる時もあります。このような場合、摩擦を軽減させてスムーズに動くようにするための調整が必要です。写真はその作業を行っているところです。

次の作業は、鍵盤を押し込んだ状態で、深さを一般的な規定通りに調整することと、鍵盤の上面の高さを一定に保つために調整する作業です。深さが一定していない場合や、鍵盤の上面が凹凸の状態だと、見た目も良くありませんし、また、演奏にも大きく影響を及ぼします。演奏する人に弾きやすさを感じていただくためにも、この作業は不可欠なものです。

先程の6番目の写真に、グランドピアノの響板の塗装作業がありました。塗装作業の前にピアノ線を外してフレーム(鉄骨)を降ろしますが、この写真はちょうどピアノ線を外している場面になります。ピアノ線は全体で約230本あり、その総張力は約20トンになります。ピアノ線を外す時は、全体的に少しずつバランス良く張力を緩めていきながら、取り外していきます。

この写真は、グランドピアノのアクションに新しいハンマーを取り付けている作業の様子です。各セクションごとに両端のハンマーが付いていますが、それを基準にして間のハンマーを取り付けていきます。ハンマーを取り付けた後、しっかりとした音を出すためには、まだまだ多くの作業が必要となります。完成するまでには、さらに数十時間を費やさなければなりません。

この整調・整音という作業はオーバーホールの最終段階での作業となります。ピアノの弾きやすさと、そのピアノが出せる最高の音の状態に仕上げていきます。ピアノは新しいハンマーを取り付けただけでは、まともな音は出ません。それからが、調律師の腕の見せ所になります。この作業は非常に高度な技術を必要としますので、相当な経験を積んだ調律師でないと、良い音に仕上げることはできません。また、新しいピアノでなくとも、この整音・整調作業は必要です。ただ、作業が難しいため、多くの調律師はこの部分に手を付けることはあまりありません。調律師の最終的な仕事は、音質や弾きやすさを追求していく作業になります。当社では調律師の育成のため、年間を通してプロのピアニストを招いて研修会を行っています。当社の調律師の中から3人を選んで、それぞれの調律師が仕上げたピアノ3台を使用して社内演奏会を行い、プロのピアニストから多くのアドバイスをいただきます。そのアドバイスを参考にして、技術の向上に役立てております(年間3~4回程度の割合で開催)。

この写真は、調律専用室での作業風景です(写真撮影のためにドアは開けてあります)。先程の説明のように、調律師の仕事は「調律」「整調」「整音」の三種類のすべてとなりますが、ほとんどの場合、一般的な「調律作業」に限定されてしまいます。しかし、この三種類の仕事をすべて行わないと、より良い状態にはなりません。また、それらの作業にかかる時間は、例えば一般的な調律だけだと、約1時間前後で終わる場合もありますが、「整調」「整音」まで含めた作業の場合には、状態によりまして、2時間から8時間以上かかる場合もあります。グランドピアノの場合は10時間・20時間・30時間とピアノの状態によって所要時間は大きく異なります。


完成検査は、それぞれ工程ごとの作業が完了した時点で行われます。ここでの完成検査とは、全体の作業が終了し組立が終わった状況で行われる検査になります。この検査後も出荷までの間、さらに2回の検査がありますが、この検査は「最後の関所」というくらいの気持ちで真剣に作業に取り組んでいくことが求められます。細部に渡って入念に調べられますが、少しでも問題が見つかった場合、元の部門に戻され再仕上げの指示が出されます。そして、その再仕上げが終わると再度検査を受けることになります。検査を通過したピアノは、その時点では99.99%完璧な商品に仕上がっています。その結果、出荷後のクレームが発生する確率は、本当に「万が一」程度であり、実際にはほとんど発生していません。


当社の販売先の多くは世界各地の楽器屋さんです。毎月約1500台の中古ピアノを外国のお客さまにご購入いただいております。外国に送る場合の日数は、アジア諸国は一週間前後ですが、ヨーロッパ、またはアメリカの東海岸宛に海上で送る場合は約一ヶ月程度かかります。その途中で荷崩れなどが起こらないようにシッカリと積込みをしないといけません。当社では、荷崩れを起こさないようさまざまな緩衝材を開発し、コンテナの中での養生を厳重に行い、問題が発生しないような方法で積込みを行っております。当社の責任で問題が実際に発生することはありません。また、夏場は暑さのため積込み作業に大変な労力を要するので、強力なエアコンを設置してコンテナ内部を冷やし、積込みに携わっている人たちが仕事をしやすい環境を整えております。右側の写真は積込みが終わったコンテナが港へ向かって出発する風景ですが、東京港・千葉港・横浜港の3つの港から世界に向けて出発します。